税金が大きな負担だと感じている人は多いのではないでしょうか。国民の税金負担を表す指標である「国民負担率」。この国民負担率は、租税負担と社会保障負担を国民所得に対する比率で表したものです。令和5年の国民負担率は45.8%となり、国民は給与の半分を納税している状態です。そして、物価の値上がりは続いています。高齢化社会の加速によって社会保障給付は今後も拡大していくでしょう。そんな中、どうすれば税負担を下げられるのかを考える機会も増えているのではないでしょうか。会社員個人においても、適切な節税対策を実践することで税負担を減らすことができます。
本記事では、まずは税の仕組みを解説し、具体的な節税方法をご紹介します。
税金の仕組み
会社員であれば勤め先の会社側が確定申告(年末調整)を行ってくれるため、自分自身が納めている税について詳しく知らない場合があります。知らないままで良いのでしょうか。
財務省の「負担率に関する資料」をみると、税制改革などによって税金や社会保険料などの国民負担率は増加しています。このような状況を踏まえると、たとえ会社員であっても税の仕組みを知ることは大切だと言えます。税に関する手続きを会社側に任せず、主体的に向き合い、必要に応じて節税対策を講じることが賢明です。節税対策によって手取り金額を増やすことができます。
それではまず、会社員が納める税金について詳しく確認しましょう。
会社員が納める税金
会社員の場合、税金や社会保険料は給与から天引きされる形で納めています。会社員が支払う税金・社会保険料は下記の通りです。
名称 | 課税率 | 備考 | |
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税金 | 所得税 | 所得に応じた累進課税 | |
住民税 | 前年度の所得に応じる | ||
社会保険料 | 健康保険料 | 都道府県ごとに異なる | 会社が半額負担 |
介護保険料 | 全国一律 | 40歳以上65歳未満が対象 会社が半額負担 |
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厚生年金保険料 | 全国一律の等級制 | 会社が半額負担 | |
雇用保険料 | 全国一律 | 会社が半額以上負担 |
実際に受け取る給与金額は、すでに税金が差し引かれた金額です。この、税金が差し引かれた後の金額を「可処分所得」または「手取り額」と呼びます。適切な節税対策を行えば、手取り額を増やすことが期待できます。
所得税と住民税
会社員が支払う税金には「所得税」と「住民税」があります。
所得税は累進課税方式となっており、所得金額に応じて納める税額が変わります。所得金額ごとの控除額(差し引かれる金額)は下記のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで |
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1,950,000円 から 3,299,000円まで |
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3,300,000円 から 6,949,000円まで |
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9,000,000円 から 17,999,000円まで |
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18,000,000円 から 39,999,000円まで |
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40,000,000円 以上 |
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引用:国税庁「No.2260 所得税の税率」
※平成25年から令和19年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1パーセント)を併せて申告・納付しなければいけません。
住民税は、地域社会の費用を分担するためのもので、「都道府県民税」と「市町村民税」のことです。所得に応じて負担する「所得割」と、所得に関わらない一定の額を負担する「均等割」があります。
所得割(標準税率) | 均等割(年額) | |
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区市町村民税 |
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道府県民税・都民税 |
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合計 |
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社会保険料
社会保険とは、社会保障制度の一つであり、年金、医療、介護などの分野で国民に提供されています。20歳以上の国民は加入する必要があります。社会保険料は下記の5種類です。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 労働者災害補償保険料(会社が全額負担)
労働者災害補償保険料に関しては勤め先の会社側が全額負担するため、会社員個人が支払う必要はありません。その他の保険料の課税率や負担料については「会社員が納める税金」の表をご覧ください。
節税とは
控除や非課税制度を活用し、納める税金負担を軽減するのが「節税」です。
給与から天引きされる税金・社会保険料が減額されれば、手取り額を増やすことができます。こうした節税は法律の範囲内で行われるものですので脱税とは異なります。ただし、自分では節税の認識で行った行為であっても、税務署から「脱税」とみなされてしまうと懲役や罰金などのペナルティを課され、社会的信用の損失につながる恐れがあります。節税方法について正しく知ることが重要です。
会社員ができる節税方法5選
誰でもすぐに取り組める節税対策とは
勤め先の企業規模や年収に関わらず、誰でもすぐに取り組める節税対策もあれば、一定の条件を満たすことで適用される節税対策などさまざまな方法があります。詳しく解説します。
所得控除
「所得控除」とは、税額計算の対象である給与所得を減らすことで納付税額を減らすことです。給料・賞与などの1年間の収入額に応じて差し引かれる給与所得控除とは、別のものです。所得控除は、一定の要件を満たした場合に適用され、確定申告もしくは年末調整で申告する必要があります。
所得控除のうち、代表的なものは下記の通りです。
控除名称 | 対象 | 控除額 |
---|---|---|
雑損控除 | 災害や盗難、横領によって損害を受けた人 | (差引損失額)-(総所得金額等)×10%と(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円の多い方 |
医療費控除 | 一定額以上の医療費を支払った人 | (支払った医療費-保険金などで補填される金額)-10万円 ※その年の所得金額が200万円未満の人は所得金額×5% |
社会保険控除 | 社会保険料を支払った人 | 支払った保険料の合計額 |
寄付金控除 | 認定NPO法人等への寄付やふるさと納税をした人 | 「寄附金支出合計額」と「所得 ×40%」のいずれか少ない方-2,000円 |
配偶者控除 | 配偶者の合計所得が48万円以下の人 | 配偶者の所得金額に応じて最大48万円 |
扶養控除 | 16歳以上の子どもや両親を扶養している人 | 一般控除対象扶養親族は38万円 特定扶養親族は63万円(扶養親族が19歳以上23歳未満) 老人扶養親族は最大58万円 |
基礎控除 | すべての人 | 所得金額に応じて最大48万円 |
普段は年末調整を会社側に任せている会社員も、雑損控除、医療費控除、寄付金控除を適用させるためには、個人で確定申告をしなければいけない点にご注意ください。また、年末調整の期限に間に合わなかった場合や申告を忘れていた場合には、還付申告をすることで払いすぎた税金の還付を受けることができます。「所得控除」に該当する支払いがなかったか、年度末が来る前に確認しておきましょう。
ふるさと納税
「ふるさと納税」とは、自分の生まれ故郷や応援したい自治体など、寄附先を自分で選んで寄附できる制度です。
ふるさと納税は寄付金控除に含まれますが、自治体に寄付した場合とは控除額が異なります。一般的に国や地方自治体・特定公益増進法人などへ寄附した場合、寄付金の一部が所得税および住民税から控除されます。しかし、ふるさと納税を行うと、寄附金額の2,000円を超える全額について、翌年の住民税や所得税から還付・控除を受けることができます。
控除を受けるためには原則、ふるさと納税を行った翌年に確定申告する必要があります。ただし会社員であれば、ふるさと納税先の自治体数が5団体以内の場合に限って「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が適用されるため翌年の確定申告は不要です。
住民税や所得税として納める金額そのものが減額されるわけではありませんが、寄付金額の一部が返礼品(特産品など)として返ってくるという点で魅力的な制度です。
返礼品については議論があります。行き過ぎた返礼品競争や地域との関連性などが問題視されたことを受け、2023年10月1日から返礼のルールが厳格化されました。返礼品を含めたふるさと納税にかかるすべての経費を寄付額の5割以下に収める「5割ルール」が定められました。
住宅ローン控除
「住宅ローン控除」とは、住宅購入から10年または13年に渡り、年度末のローン残高に応じて毎年税金が安くなる制度です。購入初年度は自分で確定申告する必要がありますが、翌年以降は年末調整として会社側へ任せることも可能です。
住宅ローン控除が適用される要件は下記のとおりです。
- 住宅ローンの返済期間が10年以上であること
- 物件を取得してから6ヶ月以内に自分自身が入居すること
- 登記簿上の床面積が50㎡以上で、その1/2以上が自己の居住用であること
- 控除を受ける年分の合計所得金額が2,000万円以下であること
NISA(つみたてNISA、一般NISA)、ジュニアNISA
「NISA」とは、少額投資非課税制度のことです。控除制度とは異なり、NISA口座を利用して投資した収益に、税金がかからないという制度です。
金融商品に投資して得られた利益や配当には通常、約20%の税金がかかります。しかし、NISA口座を利用すればその利益が非課税となります。
NISAにはいくつかの種類があります。少額から始められる「つみたてNISA」、自分のタイミングで運用商品が購入できて対象商品も幅広い「NISA」、子や孫のために投資を行う「ジュニアNISA」があり、それぞれの違いは下記のとおりです。
一般NISA(20歳以上) | つみたてNISA(20歳以上) | ジュニアNISA(20歳未満) | |
---|---|---|---|
非課税期間 | 5年間 | 20年間 | 5年間 |
年間非課税枠 | 120万円 | 40万円 | 80万円 |
投資可能商品 | 株式投資信託 | 長期の積立・分散投資に提起した一定の投資信託 | 株式投資信託 |
国内株 | 詳細は金融庁のホームページを参照 | 国内株 | |
外国株 | 外国株 | ||
国内ETF | 国内ETF | ||
海外ETF | 海外ETF | ||
上場投資証券 | 上場投資証券 | ||
国内REIT | 国内REIT | ||
海外REIT | 海外REIT | ||
新株予約権付社債 | 新株予約権付社債 |
2024年からは新しいNISAが導入されます。これにより、非課税期間が無期限になります。現行制度では「つみたてNISAか一般NISAか」の選択制ですが、新制度では「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が併用できます。つまり、新制度導入によって中・長期的にNISA口座を利用した投資が可能になります。
確定拠出年金[個人型(iDeCo)・企業型DC]
「確定拠出年金」とは、加入者が拠出した掛金と、その掛金を運用した成果の合計額によって将来の年金受取額が決定する制度です。
加入者自身が拠出する個人型(iDeCo)と、事業主が掛金を拠出する企業型(企業型DC)の二種類があります。別名、「掛金建て年金」とも呼ばれています。
前述のNISA (一般NISA、つみたてNISAやジュニアNISA)との大きな違いは、掛金が所得税・住民税の課税対象から外れる点です。個人型と企業型について、概要は下記のとおりです。
個人型(iDeCo) | 企業型DC | |
---|---|---|
実施主体 | 国民年金基金連合会 | 企業型年金規約の承認を受けた事業主 |
加入条件 | 20歳以上~65歳未満の国民年金保険者 | 70歳未満の企業型DC実施企業に勤務している従業員 |
引き出し条件 | 60歳まで引き出し不可 | |
税制優遇措置 | <拠出時> 掛金が所得税、住民税から控除される(全額所得控除) <運用時> 運用益が非課税になる <給付時> 退職所得控除、公的年金等控除の対象になる |
<拠出時> 掛金が会社の損金として計上される マッチング拠出の掛金は全額所得控除の対象になる <運用時> 運用益が非課税になる <給付時> 退職所得控除、公的年金等控除の対象になる |
節税の注意点|確定申告を忘れないようにしよう
会社側に年末調整を任せている会社員であっても、一部の控除を受けるためには個人で確定申告する必要があります。
また、年間の給与収入が2,000万円を超える場合は会社で年末調整を受けることが出来ません。また、副業による所得が20万円を超える場合も確定申告をする必要があります。
自分自身で確定申告が必要なものは下記の通りです。
- 医療費控除
- 寄付金控除
- 特定支出控除
- 住宅ローン控除の初年分
- 年末調整で申告し忘れた控除
- 雑損控除(天災や盗難など被害に合った場合)
年末調整や確定申告の時期に差し掛かる前に、控除対象となる支払いがあるか、そしていくらだったか確認しておくのが良いでしょう。
確定申告については「【最新情報】ポイ活は確定申告すべき?申告が必要な場合について詳しく解説」や「iDeCoの年末調整や確定申告の方法|所得控除額はどのくらい?」などで解説しています。ご自身の状況に合わせてご参照ください。
まとめ|さまざまな控除を使って節税しよう
税制改革などによって税金や社会保険料は増加し、物価の値上がりも続いています。
会社員は会社側に年末調整を任せることができるので、税の仕組みを知らなくても問題なく税金を支払っている状態です。しかし納税当事者として、自分が納めている税金はいくらであるかをきちんと把握し、税負担を軽減できる方法がないのか、今一度確認しましょう。本記事を参考に節税対策を行ってみてください。
よくある質問
Q1.簡単にできる節税方法はありますか?
以下5つがあります。- 所得控除
- ふるさと納税
- 住宅ローン控除
- NISA(つみたてNISA、一般NISA)、ジュニアNISA
- 確定拠出年金[個人型(iDeCo)・企業型DC]
詳しくは「会社員ができる節税方法5選」の章をご覧ください。
Q2.年末調整をしていても確定申告は必要ですか?
多くは年末調整により控除が受けられますが、医療費控除や寄付金控除などの確定申告が必要なケースもあります。
詳しくは「節税の注意点|確定申告を忘れないようにしよう」の章をご覧ください。