現代のビジネスシーンにおいて、残業は多くの社会人が直面する大きな課題です。
今回は残業形態の一つである「みなし残業」の実態について調査してみました。
「みなし残業」という言葉をインターネットで検索すると、「やめた方がいい」「違法」「定時で帰る」といったネガティブな関連キーワードが表示されます。これらのキーワードから、世間では「みなし残業=ブラック企業」というイメージが強く持たれている可能性があります。これらの内容は主観的であり、すべての企業に当てはまるとは限りません。
そこで実際の状況と世間のイメージにどのような違いがあるのかを、全国約3,000人の社会人を対象にアンケートを実施しました。
また、今回も最新のAI技術の一つである生成AI「ChatGPT-4o」に、アンケートの結果を予測させた後、実施したアンケートの調査結果と比較していきます。どんどん進化するAIの予測能力が、現実に追いつくのか…記事の最後に結果をまとめているので、様々な角度から見る調査結果をお楽しみに!
まずみなし残業と通常残業の違いについて紹介します。
みなし残業とは
みなし残業の基本的な仕組み
みなし残業とは、企業があらかじめ一定の残業時間を想定し、その時間分の残業代を基本給や手当として支給する制度のことを指します。固定残業代とも呼ばれ、実際の残業時間に関わらず、定められた残業代が毎月支給されます。また、労働者が設定された企業が定めたみなし残業時間を超過した場合、企業は超過時間分の残業代を労働者に支払う義務があります。
一方で、通常残業(普通残業)は、労働者が実際に働いた残業時間に応じて残業代が支払われる仕組みです。労働基準法では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働に対して、割増賃金を支払うことが義務付けられています。
勤務先で適用されている残業形態
みなし残業の採用は13.6%と少数派
今回はみなし残業と通常残業のほかに、業務内容的に残業が存在しないものを加味し「残業なし」の項目を追加しています。結果として、みなし残業で働く人は全体の13.6%と少数な結果となりました。一方残業形態としては、通常残業(43.9%)が最も多く伝統的な制度を採用している結果となりました。
みなし残業はそもそもの母数が少なく、出回る情報が偏りやすいことがブラックなイメージと結びつけられやすいのかもしれません。
それぞれのメリット
みなし残業のメリット
みなし残業で最もメリットに感じる部分を調査してみたところ「自分の裁量で働けることが多い(30.3%)」と回答した人が最も多く、その他の選択肢はほぼ横並びの結果となりました。
残業時間を細かく管理されることについてストレスを感じる方にとっては、みなし残業によって個人が裁量を獲得することは大きなメリットなのかもしれません。
通常残業のメリット
続いて通常残業のメリットについて聞いてみたところ「残業代が収入の増加につながる(34.4%)」が最も高い割合となりました。また「実際の残業時間に応じて残業代が支払われる(28.5%)」が2番目に指示されていることから、通常残業で働く人の意識は労働力=労働時間と捉えている可能性があり、その上で収入を増やしたいというニーズが高いことを示しています。
次にデメリットについても調査していきましょう。
それぞれのデメリット
みなし残業:長時間労働と不公平な残業代に対する不満
「長時間労働になりやすい傾向がある(24.1%)」と「実労働時間と給与が見合わないと感じる(22.7%)」を合わせると、約46.8%の人が労働時間に不満を抱いている結果となりました。
また、「追加の残業代が支払われないことがある(14.8%)」と回答した人が一割を超えるという結果も注目すべき点ではないでしょうか。
固定残業時間を超えた場合、企業は超過した時間分の残業代を支払わなければなりませんが、悲しいことに管理体制が十分ではない企業も少数ですが存在しているようです。
通常残業:健康・私生活への影響と収入減少のリスク
通常残業では「残業時間が増えると健康や私生活に影響が出やすい(35.9%)」が最も大きなデメリットと考えられています。通常残業を採用する企業の特徴として、繁忙期と閑散期の差が激しく、月によって残業時間が大きく変動する可能性が考えられます。
また、次のデメリットとして「残業時間が減ると収入が減少する可能性がある(31.9%)」が挙げられています。
健康や私生活のバランスを重視したい一方、残業をしなければ収入が増えないことについて、不満に感じる方が一定数いるようです。
調査結果から見る!平均残業時間の違いが明らかに!
みなし残業のデメリットとして長時間労働になりやすいという意見がありましたが、実際に通常残業とみなし残業の残業時間はどれほどの違いが出るのでしょうか。比べてみたところ、以下のような結果となりました。
みなし残業では長時間労働者の割合が約2倍に増加
残業時間の違いについて具体的に見てみたところ、特に長時間労働者(31時間以上)に差が出ていました。通常残業が12.3%でみなし残業が23.0%、と2倍近い結果になりました。この点がみなし残業に対する不満の要因である可能性が高いと考えられます。
確かにみなし残業は、通常残業より残業時間が長くなる傾向にあるようです。
しかし、みなし残業でも月の平均残業時間が10時間以下の人が4割以上いることは注目すべき点です。
ここからは残業を減らす取り組みと、実際に残業削減に成功した方の体験談を紹介します。
絶対に帰りたい。そんなあなたに贈る5か条
1. タスクの優先順位を明確にする
重要な仕事を優先的に片付け、後回しにできるものは後に。業務を整理することで、無駄な時間を減らせます。ToDoリストを作って優先度の高いものから作業するようにしたら仕事が早く終わるようになった(サービス業)
2. スケジュール管理ツールを活用
GoogleカレンダーやOutlookなどを使って、業務にかける時間を可視化し、計画的に仕事を進めましょう。毎日、何時から何時まではこの業務を行うための時間管理のツールがあり、誰が何時までにこの業務を終わらせるかが、明確になっている。 時間内に終わらせれない場合は、何故時間がかかっているかも、明確になり育成にもつながる(小売・卸売業)
3. 業務の効率化・自動化
ExcelやPower Automateなどで繰り返しの作業を自動化し、業務を効率化します。無駄を省き、手間を減らしましょう。Power Automateを学んで手動でやっていた作業を自動化しました。学ぶまでが億劫でしたが、マクロやPower Automateは学んでおくと汎用性が高いのでお勧めです。(IT・通信業)
4. 会議を効率化
会議は短く、目的を明確に。事前にアジェンダを準備し、重要な議題に集中することで、時間を節約できます。集まる必要がない会議などは現場からオンラインで行う(建設業)
5. 上司や同僚と連携
業務量が多いと感じたら、上司や同僚と相談し、タスクの分担や見直しをしましょう。周囲との協力が残業削減に繋がります。短時間で実践できる方法を取り入れ、効率的に仕事を進めていきましょう。
残業を上司による許可制度にしたら、チームが全体的に無駄な残業をしなくなった。(小売・卸売業)
【AI vs. リアル】AIはみなし残業の現状を予測できるのか
さて、ここまでのアンケート結果をAIはどれくらいの精度で予測できていたのでしょうか。
紹介したアンケート結果からいくつかピックアップして、AIの予測と比べてみましょう。
AIには事前にアンケートの対象者条件と、実際のアンケートと同じ選択肢を読み込ませています。
また、ここでは予想について的中・的中せずという表現を行っていますが、AIの予測と調査結果のずれが5%未満で合った場合、的中と表現しています。
【AI vs. リアル】みなし残業の採用率
AIに質問
対象者の残業形態の割合を教えてください。
AIの回答
以下は全国規模の一般的な傾向に基づく予測です。
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AIの予測が的中せず!
AIがみなし残業の割合を実際より高く予想したため、的中しませんでした。
筆者はこれまでの調査から普及率や認知度についてはAIの得意分野と認識していましたが、意外にも調査結果とはかけ離れた結果となりました。
みなし残業については業種によって採用率が大きく異なる上に母数が少ないため、予測がしにくい分野だったのかもしれません。
【AI vs. リアル】みなし残業のデメリット
AIに質問
みなし残業について、労働者が最もデメリットに感じるものを選んでください。
AIの回答
みなし残業の一般的な問題点について考慮します。
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AIの予測が的中せず!
AIは残業代が支払われないことを最大のデメリットと回答しており、予想は的中しませんでした。確かに残業代の未払いは大きな問題ですが、ネットでよく取り上げられるネガティブな体験談に、予測が影響した可能性があります。
また「残業時間で給与が変わらないため、モチベーションが下がる」というデメリットについてはAIの予想(5%)が調査結果(19.7%)よりかなり低い割合でした。労働者の心理的な側面を読み取れなかった結果といえるでしょう。
【AI vs. リアル】みなし残業の平均残業時間
AIに質問
みなし残業で働く労働者の、残業の平均時間を予測してください。
AIの回答
みなし残業で働く人々の平均残業時間の予測を行います。
AIの予測が的中せず!
AI予測では、全体的にみなし残業制度下の労働者がより長時間労働をしていると仮定していましたが、実際の結果を見ると、短時間の残業や残業なしの労働者がAIの予測より多い結果となりました。
様々な政策や企業の取り組みによって労働時間の見直しが進んだ結果、このような差異になったことが予想されます。
残念ながら、今回は3問中1問も予測が的中しない結果となりました。
【AI vs. リアル】を通してみると、徐々に話題に寄ってのAIの得意・不得意が明らかになっていますが、今後AIはどの様に現実に近づいていくのか…これからが楽しみですね。
まとめ
この記事では、みなし残業と通常残業の違いや、それぞれのメリット・デメリット、そして実際の残業時間に関する調査結果をもとに、労働環境について考察しました。
結果としてみなし残業では長時間労働(月31時間以上)をする人の割合が通常残業の2倍と多い結果となりました。
そのため、労働時間と給与のバランスに不満を持つ人が多く、少数意見ではありましたが、追加の残業代が支払われないケースも問題視されています。一方で、すべてが悪いわけではなく、裁量の自由度が高いとメリットを感じている労働者も存在します。
今回、残業の改善に向けた具体的な方法として、タスクの優先順位を見直すことや、業務の効率化・自動化、会議の短縮、上司や同僚との連携強化等を、残業の削減に成功した人の体験談を交えて紹介しました。
みなし残業か通常残業かに関わらず、皆さんが適切な労働で快適な生活を送るヒントになれば幸いです。
調査概要
- 調査方法:
- infoQでwebアンケート実施
- 調査期間:
- 2024年10月18日(金)~2024年10月19日(土)
- 有効回答:
- 2,983サンプル
- 調査対象:
- 全国15〜59歳社会人男女